疑似科学(ぎじかがく)[注釈 1]とは、学問、学説、理論、知識、研究等のうち、その主唱者や研究者が科学であると主張したり科学であるように見せかけたりしていながら、現時点(As of Today)での知見において科学の要件として広く認められている条件(科学的方法)を十分に満たしていないものを言う
日本語では、「科学ではない」ということをはっきりさせるために、ニセ科学あるいはエセ科学という語を用いる人もいるが、単に「科学でない」ということであるならば文字通り「非科学」という表現がある。
類似の概念で、科学的方法を採用するが未だ至らないもの、至っているが社会全般に科学であると認められていないものをプロトサイエンス(未科学、異端の科学)という。
フリンジサイエンス(境界科学)という表現もあるが、この表現を使う人の立場や話の前後状況によって肯定的な使い方か、または否定的ではあるが完全な揶揄や非難を避けたい場合の表現法であるかが微妙に変わるので要注意である。いずれにしても、従来の正統な科学ではない意味となる[注釈 4]。
科学哲学による科学と疑似科学の境界線
科学哲学では、何を科学とするかの論争が続いている。 どこからを科学とし、どこからを疑似科学とするのかを決定する境界設定問題(線引き問題)がある。この問題について詳細な探求を行った代表的なグループがウィーン学団である。ウィーン学団は、論理実証主義を用いて既存の科学を検証した。その結果、「あらゆる理論の中には、必ず未実証の部分が含まれている」ため、存在する全ての科学は「最終的には疑似科学と区別ができない」という結論に達した。
故に、現代の自然科学では、少なくとも人間によって合理性が認められる理論を「今のところ正しい(正しい可能性が高い)」と仮定し、それ以外の理論を「正しくない(正しい可能性が低い)」とする考え方が一般化した。(→仮説)[注釈 5] もっとも現実には、学会の権威者の意向、科学雑誌の編集長の個人的な考え、その他の政治的な理由などで"正しさ"が決定されることもある[要出典]。とはいえ、同じ分野でも複数の学会や査読付き学術雑誌が存在するため、論理的・方法論的に間違った内容の論文・学説は別の学術雑誌からの批判に晒される。
反証主義
1934年、科学哲学者のカール・ポパーは自著『科学的発見の論理』[注釈 6]で、反証主義の考え方を展開した。反証が可能であるという意味の「反証可能性 (falsifiability)」をもつ理論を科学とした[注釈 。「反証が不可能」な理論は、科学では無いとして線引きされるということである。
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しかし、この反証主義の理論は、100%の再現性を求めるため、1度でも反証された理論を認めないという欠陥がある。このため現在の科学哲学では主流の考え方ではない。たとえば、ポパーの元で学んだラカトシュ・イムレは、ハードコアの考え方を展開し、多少反証が出た場合も有効であるとした。
アドホック(後付け)な仮説
ある理論が反証された後、後付けの説明を行うアドホックな仮説が行われることがある。反証主義では認められないが、科学的発見においてはしばしば行われている。
統計とバイアス
反証主義以降に、ある頻度で起こるというように確率的にものごとを検証する方法としての統計学が発達していった。 集団遺伝学を築いたロナルド・フィッシャーによる統計学的な実験計画法が発展していった。こうした統計に従った場合、線引きではなく、ある方法は再現性がどの程度あるかという程度の問題として捉えられる。
統計の際にも、人間の心理的な作用によって認知バイアスが起こり、例えば、自分の都合のいいように証拠を集める、測定するという確証バイアスがある。こうしたことを避けるため、1948年には、観察者にも誰に偽薬を渡したのか分からない計測方法である二重盲検法がはじめて行われた。1955年に、偽薬や偽治療によっても、心理作用を通して効果が出るというプラシーボ効果について発表された。効果のあると思っていることが、単なるバイアスであったり、プラシーボ効果であったりすることがある。
こうした統計を行った結果が有意水準以下であった場合、ある方法は偶然以上の確率で起こると考えられる。
1990年には医学分野で根拠に基づいた医療が提唱され、よりバイアスを排除できる研究や、複数の文献をもとに評価したものほど科学的根拠が強いとし、科学的根拠の強弱の概念を採用している。
こうした統計によって有効性が認められなかった方法や理論は、効果のない疑似科学であると批判されることがある。
疑似科学の傾向
疑似科学に属する主張では、データの扱い方が作為的である、想定された結論に矛盾するデータを無視する、引用している文献と違うことが書かれている、データや根拠の非公開、研究方法の非公開、などといったものがしばしば見られる。
ハインズによる指摘
1988年、アメリカ合衆国の心理学者テレンス・ハインズは自著[注釈 8]において疑似科学の傾向を以下のようにまとめた
反証が不可能であること (ポパーによる反証可能性)
検証への消極的態度
立証責任を転嫁する
マーティン・ガードナーによる指摘
1952年、アメリカ合衆国の懐疑論者マーティン・ガードナーは、その著書(1952年初版)[注釈 9]において、疑似科学者の傾向として以下の5項目が挙げられるとした。
自分を天才だと考えている。
仲間たちを例外なく無知な大馬鹿者と考えている。
自分は不当にも迫害され差別されていると考えている。
もっとも偉大な科学者や、もっとも確立されている理論に攻撃の的を絞りたいという強迫観念がある。
複雑な専門用語を使って書く傾向がよく見られ、多くの場合、自分が勝手に創った用語や表現を駆使している。
このように、理論そのものの検証ではなく人物プロファイルのような様相がある。
またガードナーは同著において以下のようにも述べた。
「もしある人が、手に入る限り全ての証拠に矛盾するし、また真剣な検討に値するような合理的な根拠を何一つ提供しないような考え方を頑固に提唱し続けるのなら、仲間から奇人というレッテルをつけられるのも当然だろう」
その他
疑似科学の中には、「既存の科学理論の間違いを見つけたと主張する」ものがあるが、この場合科学理論の「直観的に分かりやすい」部分や「一般人にとって知名度が高い」理論が攻撃されやすいとされる。これは、疑似科学者の多くは科学的知識に乏しくて複雑な科学理論を理解できない事と、科学理論の間違いを示した時に一般人の反響が大きい事などが原因であろう。例えば「時空が歪む」とする相対性理論や「永久機関は存在しない」とする熱力学の法則は、疑似科学者達に頻繁に攻撃される傾向にある。特に相対性理論は素人には誤解されやすい理論であり、こうした攻撃の根拠の一つとして「宇宙はシンプルである」事が挙げられる。すなわち、シンプルであるはずの宇宙で、時空が歪むような「複雑な」現象が起こるはずがない、というのが彼らの主張である。
その他の傾向として、疑似科学者のなかにはディプロマミルで取得した博士号を権威付けに使うこともある。
疑似科学と悪徳商法
疑似科学を用いる者には法的には悪意の者(自分で説いている説明が科学的でないことを承知の上で非科学的な説明をして相手に何らかの不利益を与えようとしている者)もいれば善意の者(自らも信じており、それが非科学的とは思っていない者)もいる。善意の者は心から信じきっていることから「ビリーバー(「信者」の意)」とも呼ばれる。
疑似科学は悪徳商法とも親和性が高く、商品等を消費者に売って金品を得んがために用いられることがしばしばある。
金融商品の販売の現場においては、金融工学としては間違っている説明をあたかも金融工学的あるいは科学的であるかのように見せかけ、説明されたほうもそれが科学的と信じていることがある。
ねずみ講や連鎖販売取引(MLM)の分野において、数式や図式を用いてミクロ経済学を装い事実と異なる説明が行われる場合があり、説明されたほうも自分は科学的で合理的な行動をとっていると思っている場合がある。
工業製品の販売に疑似科学が用いられることがある。節電器、マイナスイオンなどを参照。
疑似科学は、偽医療の分野に親和性が高く、療法の根拠として使われることがある。世間に広く知れ渡っている医学的俗説の中には、医学的な正当性がないにも拘らず、(一般の人ばかりでなく)それを信じている医師が多いものもあるため、不適切な医療行為の原因になる恐れが指摘されている[1]。
ニセ科学批判
疑似科学の社会的な悪影響を問題視する場合に、ニセ科学という表現が使われることがある。笑えるトンデモ科学のように社会的に有害性があるとまでは言えない疑似科学も多いため、ニセ科学という表現は、単に疑似科学というだけではなく、それが社会に対し大きな有害性を持っているとの見解を暗に表明するために用いられる。例えば、悪徳商法の手段となっている疑似科学を強く批判し、その社会的な害悪を防止する活動などを自ら評してニセ科学批判と呼ぶ。ニセ科学批判の目的が科学の啓蒙や社会の論評であるといった誤解がなされることがあるが、正しくは「社会的な有害性を持った疑似科学」による被害の防止を目的とした活動である。疑似科学的な表現を含む商品説明によってある特定の事業者が法令違反を犯していると仄めかす記述が大学のサイトで公開されている状態をお茶の水女子大学が削除の要請を拒否してまで放置したことが名誉毀損に当たるとして、法的紛争にまで発展している事例もある[注釈 10][注釈 11][注釈 12]。参加申立人代理人の壇俊光弁護士(Winny弁護団事務局長)は、科学的根拠を伴わずに「環境にやさしい」ことを謳った商品宣伝が行われていたとして、事業者による「エコ偽装」疑惑を追及する弁論を展開した[2]。さらには、 事業者が扱っている商品について「効能の,具体的内容を明らかにせず」に販売していた点を追及して、そのような販売方法は社会通念上の重大な問題があるとして、また、Wikipediaの悪徳商法の記述を有力な根拠として、当該事業者を悪徳商法に該当するものであると公式に断定してよいことを立証しようとした[3]。 ニセ科学批判の実際の態様については天羽優子のコメントが参考になる